【松本智量のようこそ、仏教シネマへ 】「37セカンズ」

「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な映画」などを 〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。

『37セカンズ』 HIKARI監督  2020年日本作品

 タイトルの37セカンズ=37秒とは、主人公の女性・エマが出生時に無呼吸だった時間のこと。わずかそれだけの時間により、エマには脳性麻痺の障害が残り、その後の生活を車椅子で送ることとなります。

 エマは現在22歳で、母親とふたり暮らし。母親の過剰気味と思える介護に窮屈さを覚えるようになりながらも甘受し、仕事は友人のマンガ家のゴーストライターをしています。そんな中、自分名義の作品を描きたいと思い立って出版社に作品を持ち込みますが、編集者は一瞥(いちべつ)してこう切り捨てるのです。「中身が薄っぺらだ。あなたにはもっと経験が必要じゃないか」と。その言葉に背中を押され、エマは街に繰り出します。そこで出会った人びとがエマの世界を開いていきます。

 エマを演じる佳山明さんは実生活でも脳性麻痺。オーディションでこの役を獲得すると、監督は佳山さんの実体験を作品に盛り込みます。だから細部のリアリティは抜群。しかし一方で、中盤以降の展開は現実離れしていると感じる方もあるでしょう。そう思ってしまうのは、街に出る以前のエマ母子と同じ感覚です。エマの行動と自己認識を規制していたのは、社会と自身の両方なのです。

 終盤でエマは、長く離れ離れにいた重要人物と再会した際に、笑顔でこうつぶやきます。「障害になったのが私でよかった」。この言葉には、何重もの、また、何種類もの肯定が込められています。それらのひとつひとつがとても大切に思えます。そして、そのようなさまざまな肯定を贈られているのは、エマひとりではないことも教えられるのです。

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