【多田修の落語寺】「安兵衛狐(やすべえぎつね)」

落語は仏教の説法から始まりました。
だから落語には、仏教に縁の深い話がいろいろあります。
このコラムでは、そんな落語と仏教の関係を紹介していきます。

演題 安兵衛狐(やすべえぎつね)

 自他とも認める変わり者の源げん助(げんすけ)。近所の人から萩(はぎ)見物に誘われましたがそれを断り、「墓見(はかみ)」に出かけます。お寺に着いて、ある女性のお墓の前に座り、お墓に話しかけながら酒盛りしています。ふと横を見ると塔婆(とうば)が倒れていて、人の骨がのぞいています。源助はそれに酒をかけて供養しました。その晩、源助の家に女性の幽霊が現れます。幽霊は源助に供養のお礼を述べ、源助と幽霊は夫婦になりました。その隣に住んでいる安兵衛が、源助のまねをしたくなって出かけます。安兵衛は狐(きつね)が捕まっているのを見かけて、逃がしてやります。その狐が人間に化けて、安兵衛と夫婦になります。やがて、妻の正体が狐だと近所の人にばれて……。

 この落語の中で、源助はお墓に話しかけていました。お墓参りは、亡き人とのコミュニケーションです。世界には、私たちが通常では認識できない領域があります。そんな領域を感じる能力は、お参りをすることで磨かれていくのでしょう。亡き人の世界を感じることは、仏さまの世界を感じることにつながります。
狐が人を化かしたという話は多く伝えられていますが、狐は稲荷(いなり)の神の使いともされています。かつての人々は狐を単なる動物ではなく、この世と異界をつなぐ存在と見ていたのでしょう。

『安兵衛狐』を楽しみたい人へ、おすすめの一枚

 五代目古今亭志生(ここんていしんしょう)師匠のCD「古今亭志ん生 名演大全集19 お直し 安兵衛狐」(ポニーキャニオン)をご紹介します。志ん生師匠は落語の型を守りながらも聞き手に「天衣無縫(てんいむほう)の芸」と感じさせ、1973(昭和48)年に亡くなっていますが今でも多くのCDが販売されています。

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