【多田修の落語寺】「大山詣り(おおやままいり)」

落語は仏教の説法から始まりました。
だから落語には、仏教に縁の深い話がいろいろあります。
このコラムでは、そんな落語と仏教の関係を紹介していきます。

演題 大山詣り(おおやままいり)

 江戸のある長屋では毎年、男が全員で大山(おおやま)(神奈川県伊勢原市)に参詣します。しょっちゅうケンカが起きるので、今年は暴れた人は頭を丸坊主にすると取り決めます。その帰り道の宿屋で熊五郎(くまごろう)が酔(よ)って暴れたので、一行は酔い潰(つぶ)れて寝ている熊五郎を丸坊主にし、翌朝まだ寝ている熊五郎を置き去りにして宿屋を発(た)ちます。目が覚めた熊五郎は先回りして長屋に帰ります。そして留守番の妻を全員集め、「帰りに寄り道して海で舟遊びをしていたら転覆(てんぷく)して、助かったのは俺おれ一人。みんなを弔(とむら)うため坊主になった」と作り話をし、剃(そ)った頭を見せます。妻たちは皆その話を信じて剃髪(ていはつ)し、熊五郎と一緒に読経(どきょう)を始めます。そこに一行が帰ってきて……。

 大山には大山寺(おおやまでら)と阿夫利(あふり)神社があり、江戸から数日の距離なので、行楽を兼ねた参詣が盛んでした。江戸から大山まで複数のルートがありましたが、その一つが現在、国道246号線になっています。

 さて、僧侶が剃髪するのは古代インドからの習慣で、欲望を絶って修行に励(はげ)むという意味があります。ただし、お詫びを示すために髪を剃るのは起源が違うようです。古代中国には髪を剃る刑罰・こん刑があり、剃髪は罪人の印でした。日本ではこの二つが混ざっているのでしょう。

『大山詣り』を楽しみたい人へ、おすすめの一枚

 柳家小三治(やなぎやこさんじ)師匠のCD「落語名人会34柳家小三治 大山詣り/厩火事(うまやかじ)」(ソニー・ミュージックレコーズ)をご紹介します。小三治師匠はひょうひょうとしながら笑いを誘う雰囲気を感じさせ、現役の落語家で唯一の重要無形文化財保持者(人間国宝)です。

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