【法話】今現在説法(こんげんざいせっぽう)

言葉を超えた世界

 だんだん秋も深まってまいりました。皆さまはどんな時に秋を感じますか?

 秋そのものを直に見る事はできませんが、澄みわたる空の高さや流れる雲、樹々の紅葉、そして凛として清々しい空気の匂いなど、私たちは五感を通して秋を感じる事ができます。そして、時には言葉を絶するほど美しい自然の情景に出遇い、感動で涙があふれ、心が震える瞬間があります。何かが私たちの心を動かしたからです。それは、私たちが暫(しば)し自分中心の心から離れ、あらゆる生命を育んでいる「大きないのち」の存在に気づくからかもしれません。それこそが、今から約2500年前にお釈迦さまが目覚められた「生かされて生きている私のいのち」の真実の姿です。

共にいのち輝く星

 先日、BSテレビの番組で、国際宇宙ステーションISS(*)に長期滞在した宇宙飛行士たちの証言を特集していました。国際宇宙ステーションは現在、地球から約400キロメートル上空を、時速約2万8千キロメートル(秒速8キロメートル)で飛行し、約90分に1回地球を回っています。なんと1日に16回も日の出と日の入りを見る事になります。日本人では若田光一さんが過去に2回、最長4カ月間滞在し、宇宙から日本の子どもたちへメッセージを送り話題となりました。番組の中ではある女性宇宙飛行士が、宇宙ステーションの窓から初めて地球を見た時の衝撃と感動を語っていました。

 「私たちが宇宙ステーションで最初にする事は、窓から自分たちの住む地球を見る事です。今までの経験や言葉を超絶した、信じられないほど美しい光景を目の当たりにして、10人が10人、その後の生き方が変わります。今まで自分の家族、自分の町、自分の国という意識で生きていたのが、地球という領域まで来ると、もう自分と他人の区別さえ分からなくなってしまうからです」

 あらゆる「いのち」が想像を絶する美しい地球の上で平等に生かされ調和している真実。人智を超えた、清浄で不可思議な世界の中で見えてきたのは、国境を作り、人種や肌の色で他者を差別していく、自己中心的な私たち人間の傲慢さや愚かさだったのではないでしょうか。

「今現在説法」

 『仏説阿弥陀経』には、西方十万億仏土を過ぎて極楽という世界があり、阿弥陀と号する仏が今現に法を説いている……と説かれています。しかし、阿弥陀仏は宇宙のどこか遠くで法を説いているのではありません。

 浄土真宗の宗祖である親鸞聖人は、阿弥陀仏はさとりの智慧であり、真理であり、光明となって障りなく私たちの自己中心的な心(煩悩)の闇を破るという意味で「無礙光如来(むげこうにょらい)」「不可思議光仏(ふかしぎこうぶつ)」と称されています。今、この瞬間も私を照らす光明は様々な縁となり、私に仏の願いの中で共に生かされて生きている「いのち」の真実を説法しているのです。

 さあ、秋の夜長にご一緒に耳を澄ましてみませんか?

*国際宇宙ステーションISS(アメリカ・ロシア・日本・カナダ・欧州など世界15か国が参加する世界協力プロジェクト)

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