【あっち、こっち、どっち?】紅と白

築地本願寺新報で毎月連載中の「あっち、こっち、どっち?」エッセイスト酒井順子さんがお届けします。

女と男 紅と白

 夏が終わった瞬間にメールなどで届き始めるのが、おせち料理の広告です。おせち料理を自分で作る気は、全く無い私。そしてたいていのおせち料理は早く申し込むほど安いのであり、私は例年、まだ残暑が続くうちにネット申し込みをしているのでした。

 そんな時にふと思ったのが「今年は紅白、どうなるのだろう」ということです。紅白とはすなわち、大晦日の紅白歌合戦。コロナ時代となって、今年はあの密な状態で繰り広げられる舞台も様変わりすることでしょう。

 さらに思ったのは、女と男を紅と白とにチーム分けをして勝敗を競うという仕組みの、クラシックさです。私は紅白歌合戦が嫌いではなく、というよりむしろ大好きで毎年見ているのです。が、LGBTQの問題が話題になることが多い昨今、男女で分けるという事自体が、古い仕組みのように見えてきました。

 海外の映画祭では、女優賞・男優賞という枠組みが廃止されることにもなったのだそう。多様性が重視される世の中では、性自認やセクシュアリティは人それぞれであり、かつ、それを他人に明示する必要も無くなっています。「この人は男性なのか、女性なのか」などと思うこともあれど、「ま、どちらでもいいか」という気分になってきました。

 一昔前であれば、外見のみならず内面も、男は男らしく、女は女らしくするべきだとされていたものです。女の子は赤いランドセル、男の子は黒いランドセルと相場は決まっていたし、女は愛嬌、男は度胸だった。しかし「世の中には色々な人がいる」と認め合うことが大切になると、「女は赤」「女は愛嬌」という決めつけから、人々は自由になったのです。

 となると紅白歌合戦においても、歌手達の性別を二分することに違和感を覚える人は出てきましょう。
「紅組に入りたくないんですけど」 
と言う女性や、
「白組になることに違和感を覚えます」
と言う男性、はたまた、
「もう1組、作りませんか?」
という意見も登場するかも。白組の常連でありつつも、最近は違った一面を開示するようになった「キーちゃん」こと氷川きよしさんなどが、一石を投じてくれないものか……。

 紅と白とに二分した方が、仕組みは簡単で、色々と面倒臭くないのだとは思います。
「僕はピンク」
「私はターコイズブルー」 
などと口々に複雑なことを言う人々を管理するのは、面倒くさいに違いない。

 特に紅白は、武器が歌とはいえ「合戦」です。戦う時に「人それぞれでいいんです」などと言っていたら、一体感など醸し出すのは困難でしょうが、しかしこれからはそんな面倒くささを乗り越えつつ、紅白は姿を変えていくのではないか。

 いつまでも女vs男という合戦を年末の一大行事にしていたら、日本の男女の間の溝はずっと埋まらないのではないか、という気もするのでした。儒教思想の影響なのか、何かというと男は男同士、女は女同士でかたまりがちな日本。相互の理解を深めるという意味においても、「紅白歌合戦」ではなく「色々歌合戦」でいいのではないかと思うのですが、そうしたらきっと戦意などは早々に消えるに違いない。日本の男女関係に真の平和が訪れるのは、年末恒例のあの「合戦」が姿を変えてから、なのかもしれません。

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