【多田修の落語寺】「一目上がり」

落語は仏教の説法から始まりました。だから落語には、仏教に縁の深い話がいろいろあります。このコラムでは、そんな落語と仏教の関係を紹介していきます。

一目上がり

 長屋の住人・八五郎が掛け軸を見せてもらいましたが、ほめ方がわかりません。すると「結構な賛(絵にそえた言葉。「画賛(がさん)」とも呼ぶ)でございます」と言うものだと教えられます。次に行った家で掛け軸を見て「結構な賛でございます」と言ったら、「これは詩だ」。その次の家で「結構な詩でございます」と言うと「一休禅師の悟(さとりの言葉)だ」。八五郎は考えます。「『さん』と言えば『し』、『し』と言えば『ご』、一つずつ増えてやがる。次は『ろく』だな」。その後に八五郎が見たものは?
 さて、仏教の説法に面白おかしい小咄をまぜることが、古くから行われていました。その小咄が、落語の元です。この落語では、掛け軸の言葉を説明する時、人生の教訓になる話が出てきます。だからこの話は、説法と小咄を交えていた形に近いのではないか、と私は想像しています。
 私たちは、何かを習ったり、経験を重ねると、世界が広がった気がします。でも世の中には、思いもよらないものが必ずあります。だから予想や期待がはずれることは、よくあるものです。「想定外は必ずある」そう心に留めたいものです。


『一目上がり』を楽しみたい人へ、おすすめの一枚
三代目三遊亭金馬師匠のCD『NHK落語名人選36 三代目三遊亭金馬 堪忍袋・一目上り・雑俳・小言念仏』(UNIVERSAL MUSIC)をご紹介します(今の金馬師匠は五代目です)。亡くなって50年以上経ちますが、わかりやすい演出と明るさで人気を集め、今でも多くのCDが販売されています。

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