【松本智量のようこそ、仏教シネマへ】『イエスタディ』に見る仏教世界

「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な映画」などを 〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。

今回の作品「イエスタデイ」 ダニー・ボイル監督 2019年イギリス作品

 時代は現代。イギリスの小さな町でシンガーソングライターとして活動しているジャックは、自分の才能のなさを痛感し、音楽の道を断念します。その夜、世界中で謎の大停電が12秒間発生。とばっちりを受けてジャックは交通事故を起こし昏睡状態に。目覚めてからは後遺症もなく日常に戻るのですが、驚愕の事実に気づきます。誰もビートルズを知らない!この世界に彼らの曲が存在していない!

 ジャックが「イエスタデイ」を始めとするビートルズの楽曲を自作と偽って演奏すると、たちまち人々は魅了され熱狂しました。ジャックは一躍、世界的スターの座に手をかけるのですが、その時、「それらの曲を作ったのはビートルズだ!」と叫ぶ声が。声の主は? それにジャックはどう答える?

 紛れもない正真正銘のお宝が手に入ったとします。それを独占して活用したら、莫大な富や名声や権力など、望むものをすべて手に入れることも可能に思えるお宝です。自分ならどう行動しますか。

 この作品におけるビートルズの曲のような本物の宝を、仏教やお念仏に置き換えてみましょう。お釈迦さまが仏教という真理を体得したとき、その内容を知る者は誰もいませんでした。それをお釈迦さまは、独占することなく、公開し、広く伝える道を選んだのです。誰のもとへも届くということ自体が、真理が真理であることの要件であると考えられたのです。

 ではこの映画のジャックは? ネタバレになって大変恐縮ですが、ハッピーエンドです。そうさせたのはジャックの判断より以上に、名曲=真理自体の力です。

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